簡単に言うと、あるアンチック体(以下「某あんちっく」と記述)のTrueTypeフォントが公開されていることを知ってインストールしたら写研アンチックの模倣品だったことがことの起こりです。
作者氏の配布サイトでは、漫画雑誌のセリフ部分を『目コピー』したという記述がありました(追記: 作者氏は雑誌を見ながら大まかな部分をレタリングし、細かい部分は自分でやったと述べている)。この行為は模倣に当たるのではないかと考えたこと、また、筆者の所有する書体見本帳と比較して、誤差以上の差異が認められなかったことから、作者氏に連絡しましたが拒絶されました(追記:現在公開停止)。そこでこの問題を広く世に問うために本稿を作成しました。
某あんちっくの2007年4月7日版以降はもじくみ仮名(東京築地活版初号活字由来)、東京築地活版の明朝体三号、四号及び五号仮名を元に制作されており、本稿の模倣品と全く別のものとなっています。なお、改称前のすべての版と2007年3月26日以前の版には該当する字形が残っているので、現在の版を使用することを推奨します。(2007-04-08)
本稿は歴史的役割を終了しましたが、今後このような行為、模倣品の配布行為が繰り返されないことを目的に残します。なお、書体の模倣自体は違法行為ではありません(そうなったらレタリング教本は犯罪を教えていることになる)。書体の配布を伴わない利用であれば何ら法的な問題はないと考えられます。もっとも印刷屋などが『業として』利用すれば倫理的な問題は免れないでしょう。(2007-09-03)
今回、書体見本は株式会社 写研のO・タショニム・フォント見本帳No.2第3版(1993)とGE企画センターのクリエーターのための−写真植字[組み]見本帳 写研編から引用しました。以下少し傾いてますがご容赦ください。
作者氏の主張によれば、楷書体を漫画に合わせたということですが、一般の楷書体の形状とは大きく異なっています。少なくとも、楷書体であれば、『き』が連綿だったりしないでしょう。
比較の一例として『た』の字をご覧下さい。この字は写研とモリサワで違い、しかも同じ写研でもKF-AとKE-A、KG-Aで結構違う字です。例としてKF-AとKE-Aと、KF-Aに某あんちっくをトレースした結果を示します。
某あんちっくでは一画目が丸く巻いていて、先端でほぼ二画目と接しています。このくらいの一致は普通にあり得ますが、トレースすると一画目と二画目の角度や点の位置まで一致しています。全く新規に書体を設計したのであればこの一致は不自然です。他の文字についても見本帳にトレースしてみました。某あんちっくとKF-Aを並べたもの、少しずらして重ねたもの、クリエーターのための−写真植字[組み]見本帳 写研編 p.20にトレースしたものという順番になっています。
これらのトレース結果などから認められるように、今回の比較では『う』や『ー』など一部を除き(追記: 作者氏によれば『う』『る』『ゆ』などは気になる点があったためトレースしてまで真似ようとしなかったと述べている)、いずれの字形も写研アンチックKF-Aとよく一致しました(これ以外の字形についても一致したが、KF-AやKE-Aと同定するのが面倒なので載せていない)。このような、不自然な一致は偶然でもあり得ることなのでしょうか。
確かに、例えば著作権法(書体著作権は認められませんが、偶然の一致を認める法典として示す)において偶然の一致がありうることを認めていますが、雑誌等からの『目コピー』があった時点で偶然性は認められません。そのため、現在漫画で使われている写研やモリサワのアンチックと類似した字形が存在した場合、模倣した以外に類似の原因を合理的に説明できなくなります。
従って、今回の某あんちっくは写研KF-A及びKE-Aを模倣したものであると認められます。(追記: 作者氏は各アンチック体を比較してから、写研中見出しアンチック以外を参考にすることは結果としてなかったと述べている)
書体著作権の存在は現行の著作権法では認められておりませんが、従来より、書体は慣習的に知的財産として扱われています。このため、不正競争防止法における商品等表示であると解釈されます。
具体的には、 不正競争防止法では類似の商品等表示を排除する、二号型あるいは一号型保護要件に該当すると考えられます。今回の場合、写研KF-A及びKE-Aが著名な商品として存在する限り、つまり書体の権利が誰にも引き継がれなくなるまで、模倣品の販売や配布はできないと考えられます。
実際に東京高裁において、不正競争防止法により写植書体のコピー(当然形式は異なる)を搭載したレーザープリンターの出荷差し止め命令が確定したことがあります。従って、今回の行為も同様に解釈されると考えられます。当然、形式や制御点の相違などは同法を回避する理由になり得ません。
平成20年2月28日に以下の内容を郵送しました。(添付書類: 下記の手書き文章及びこの記事のコピーのみ)